論文情報
- タイトル
Depleted Myocardial Coenzyme Q10 in Cavalier King Charles Spaniels with Congestive Heart Failure Due to Myxomatous Mitral Valve Disease - 著者
Liselotte B Christiansen, Maria J Reimann, Anne Marie V Schou-Pedersen, Steen Larsen, Jens Lykkesfeldt, Lisbeth H Olsen - 雑誌
Antioxidants (Basel). 2021 Jan 22;10(2):161.
PMID: 33499156
要約
Congestive heart failure (CHF) has been associated with depleted myocardial coenzyme Q10 (Q10) concentrations in human patients.
The aim of this study was to investigate associations between myocardial Q10 concentrations and myxomatous mitral valve disease (MMVD) severity in dogs.
Furthermore, citrate synthase (CS) activity was analysed to determine if a reduction in myocardial Q10 was associated with mitochondrial depletion in the myocardium.
Thirty Cavalier King Charles spaniels (CKCS) in MMVD stages B1 (n = 11), B2 (n = 5) and C (n = 14) according to the American College of Veterinary Internal Medicine (ACVIM) guidelines and 10 control (CON) dogs of other breeds were included.
Myocardial Q10 concentration was analysed in left ventricular tissue samples using HPLC-ECD.
CKCS with congestive heart failure (CHF; group C) had significantly reduced Q10 concentrations (median, 1.54 µg/mg; IQR, 1.36-1.94), compared to B1 (2.76 µg/mg; 2.10-4.81, p < 0.0018), B2 (3.85 µg/mg; 3.13-4.46, p < 0.0054) and CON dogs (2.8 µg/mg; 1.64-4.88, p < 0.0089).
CS activity was comparable between disease groups.
In conclusion, dogs with CHF due to MMVD had reduced myocardial Q10 concentrations.
Studies evaluating antioxidant defense mechanisms as a therapeutic target for treatment of CHF in dogs are warranted.
ヒト患者において、うっ血性心不全(CHF)は心筋コエンザイムQ10(Q10)濃度の低下と関連している。
この研究の目的は、犬における心筋のQ10濃度と粘液腫様僧帽弁疾患(MMVD)の重症度との関連を調べることであった。
さらに、クエン酸合成酵素(CS)活性を分析し、心筋Q10の減少が心筋のミトコンドリア減少と関連しているかどうかを調べた。
ACVIMガイドラインに基いて分類したMMVDステージB1(n = 11)、B2(n = 5)、C(n = 14)のキャバリア・キング・チャールズ・スパニエル(CKCS)30頭と、他の犬種の対照犬(CON)10頭を対象とした。
心筋のQ10濃度は、左心室組織サンプルから、HPLC-ECDを用いて分析した。
うっ血性心不全(CHF)のキャバリアのQ10濃度(中央値1.54 µg/mg、四分位範囲1.36-1.94)は、ステージB1(中央値2.76 µg/mg、四分位範囲2.10-4.81、p<0.0018)、ステージB2(中央値3.85 µg/mg、四分位範囲3.13-4.46、p<0.0054)、対照犬(中央値2.8 µg/mg、四分位範囲1.64-4.88、p<0.0089)と比較して有意に低下していた。
クエン酸合成酵素活性は疾患群間で同じくらいだった。
結論として、粘液腫様僧帽弁疾患(MMVD)によるうっ血性心不全の犬では心筋のQ10濃度が低下していた。
犬のうっ血性心不全の治療ターゲットとして、抗酸化防御のメカニズムを評価する研究が望まれる。
コメント
「コエンザイムQ10って、心臓に良いんですか?」という質問は飼い主さんからよく受けます。
サプリの宿命と言うべきか、とにかく不明な点が多く、効果については何とも言えません。
人の心臓病に有効性を示した臨床試験はありますが(文献)、動物となると、同じ著者が「僧帽弁閉鎖不全症の犬にコエンザイムQ10を与えたが、とくに変化なし」という報告を出しているくらいです(文献)。
よって、現時点では、僕からコエンザイムQ10を飼い主さんにおすすめはしていません。
この研究は、「僧帽弁閉鎖不全症の犬にコエンザイムQ10が有効か?」を調べたものではなく、そもそも「コエンザイムQ10が僧帽弁閉鎖不全症の進行と関係があるのか?」を調べたものです。
結果を簡単に言うと、「ACVIMステージCまで進行すると、心筋のコエンザイムQ10が減っていた」になります。
グラフはこちらです。

確かにステージCになると、心筋内のコエンザイムQ10が減っています。
しかし一方で、ステージB1よりB2のほうが高値でした。(統計的有意差はなし)
B1→B2→Cと順にコエンザイムQ10がきれいに減っていくなら、とても分かりやすいんですが、この結果の解釈は悩みます。
単純に有意差がないからB1とB2は同じくらいと思えばいいのか、B2の症例は5頭しかいないからブレてるだけなのか、それとも他の理由なのか。
考察を読んでも触れられていませんが、著者の意見を聞いてみたいところです。
この研究の面白いところはもう1つあって、コエンザイムQ10が多く存在するミトコンドリアの働きも調べています。
コエンザイムQ10が減ったとしても、純粋にコエンザイムQ10が減ったのか、コエンザイムQ10が存在するミトコンドリアごと減ったのかでは、意味合いが違います。
前者ならコエンザイムQ10を補充すれば何らかの効果が期待できそうですが、後者の場合は心筋そのものがやられているようなものなので、コエンザイムQ10だけを足したところでどうにもならなさそうだからです。
ちなみに結果としては、僧帽弁閉鎖不全症が進行してもミトコンドリアの機能に問題は起こっていませんでした。
心筋そのものがやられてしまう心筋症などの病気と違って、僧帽弁閉鎖不全症の場合、心筋はけっこう無事のようです。
だから手術で逆流を減らしてやれば結構復活するのかな…などと思った論文でした。