心疾患犬の左心拡大予測にはどのX線画像評価がいいか?

論文情報

  • タイトル
    Evaluation of radiographic predictors of left heart enlargement in dogs with known or suspected cardiovascular disease
  • 著者
    Laetitia Duler, Lance C Visser, Kristina N Jackson, Kathryn L Phillips, Rachel E Pollard, Mason W Wanamaker
  • 雑誌
    Vet Radiol Ultrasound. 2021 Jan 13.
    PMID: 33439529

要約

Radiographic assessment of heart size is important for clinical management of dogs with cardiovascular disease (CVDz).
We sought to compare the ability of vertebral heart size (VHS), vertebral left atrial size (VLAS), and radiologists’ assessment of left atrial size (RadLAE) to predict echocardiographic left atrial size (EchoLAE), an important marker of left heart disease severity.
We also compared the ability of VHS and VLAS to predict echocardiographic criteria for ACVIM stage B2 (EchoB2) in dogs with myxomatous mitral valve disease (MMVD).
This prospective observational study enrolled 183 dogs with known or suspected CVDz that had an echocardiographic examination and thoracic radiographs obtained within 24 h. Compared to increased VHS, VLAS >2.3 was a more accurate predictor of EchoLAE (P = .002).
VLAS >2.3 and RadLAE (both P <.0001) were independently associated with EchoLAE but VHS was not (P = .45).
Optimal cutoffs for VLAS and VHS to predict EchoLAE were >2.3 vertebrae (sensitivity [Sn] = 90.3%, specificity [Sp] = 73.6%) and >11.1 vertebrae (Sn = 75.8%, Sp = 76.0%), respectively. Diagnostic accuracy of VLAS (AUC 0.84, 95% CI 0.73-0.92) and VHS (AUC 0.78, 95% CI 0.66-0.88) to predict EchoB2 in dogs with subclinical MMVD (n = 64) were not significantly different (P = .17).
Results demonstrate that VLAS and RadLAE were superior indicators of EchoLAE compared to VHS in dogs with known or suspected CVDz.
Both VLAS and VHS are useful predictors of EchoB2 in dogs with subclinical MMVD.
When echocardiography is unavailable, VLAS represents a useful radiographic measurement to aid clinical management of dogs with known or suspected CVDz.

心血管疾患(CVDz)を有する犬の臨床的な管理において、心臓サイズのX線画像評価は重要である。
我々は、左心疾患の重症度の重要なマーカーである心エコーによる左心房サイズ(EchoLAE)を予測するために、椎体心臓サイズ(VHS)、椎体左心房サイズ(VLAS)、および放射線科医による左心房サイズの評価(RadLAE)を比較した。
また、粘液腫様変性性僧帽弁疾患(MMVD)を有する犬のACVIMステージB2(EchoB2)の基準をVHSとVLASで予測する能力を比較した。
この前向き観察研究では、心エコー検査と胸部X線写真が24時間以内に得られたCVDz犬(既知または疑われる)183頭を組み入れた。
VHSと比較して、VLAS>2.3はEchoLAEのより正確な予測因子であった(P = 0.002)。
VLAS>2.3およびRadLAE(ともにP <.0001)は独立してEchoLAEと関連していたが、VHSは関連していなかった(P = 0.45)。
EchoLAEを予測するためのVLASおよびVHSの最適カットオフは、それぞれ2.3椎体以上(感度[Sn]=90.3%、特異度[Sp]=73.6%)および11.1椎体以上(Sn =75.8%、Sp =76.0%)であった。
無症候MMVDを有する犬(n = 64)におけるEchoB2を予測するためのVLAS(AUC 0.84、95% CI 0.73-0.92)およびVHS(AUC 0.78、95% CI 0.66-0.88)の診断精度には、有意差はなかった(P = 0.17)。結果は、CVDz犬(既知または疑われる)において、VLASとRadLAEがVHSに比べてEchoLAEの優れた予測因子であったことを示している。VLASとVHSの両方が、無症候MMVDを有する犬におけるEchoB2の有用な予測因子である。
心エコーが利用できない場合、VLASは既知または疑いのあるCVDzを有する犬の臨床的な管理を助けるために有用なX線検査である。

コメント

 VLASは胸部X線画像(ラテラル像)における心臓の左心房拡大を評価する指標で、2018年にMalcolm ELらによって提唱されました。2019年の犬のMMVDに関するACVIMガイドラインの中に採用されて、すっかり定着した感があります。

今回の論文はそのVLASとVHS、さらに画像専門医による見た目の評価を比べています。比べている対象は心エコーにおける左房拡大とACVIM StageB2の診断基準を満たすことが予測できるか否かです。

結果としては、VHSは左心房拡大を予測するには不向きであり、ACVIM StageB2を予測することはできました。もともとVHSが心臓全体の大きさを評価する指標であり、測定範囲に左房領域を含まないことから、当然の結果とも言えます。

一方で、VLASは左心房拡大とACVIM StageB2のどちらも予測することができました。確かに、左心房拡大を起こすことが多い犬のMMVDの病態評価には、VLASの方が理にかなっているかもしれません。

個人的に、この論文で面白いと感じたのは、見た目の評価が意外と健闘していることです。今回の見た目の評価とは、特に評価基準のない文字通りの見た目の印象です。つまり、画像専門医が見て直感的にどう思ったか?ということです。この見た目の評価がVLASと同程度に左心房拡大を予測でき、最も偽陰性率が低くなりました。もしかしたら、見た目の評価も案外使えるのかも知れません(もっとも、今回の論文では画像専門医であり、一般臨床医ではありませんが…)。

論文の中でも触れていますが、MMVDの病態評価には心エコーがゴールドスタンダードです。これらの評価方法はあくまでも、心エコーができない状況(エコーがない、心エコーをできる先生がいない、動物の呼吸状態が悪いなど)において有用であると言えます。