論文情報
- タイトル
Valvular aortic stenosis in three cats - 著者
C E Watson, J R Payne, K Borgeat - 雑誌
J Vet Cardiol. 2019 Oct;25:1-6.
PMID: 31437784
要約
Aortic stenosis affects 0.028% of cats in a shelter population, with valvular aortic stenosis compromising almost half of these cases.
Of congenital heart diseases reported in cats, aortic stenosis is the second most common one, affecting 17% of these cases.
Existing literature on valvular aortic stenosis is scant, and thus, presentation and prognosis of affected animals is poorly understood.
In this case series, we describe three cats with confirmed valvular aortic stenosis.
All cases were diagnosed echocardiographically, and all three had visible aortic valve leaflet fusion and a poststenotic dilation of the ascending aorta.
Congestive heart failure developed in all three cases, and prognosis was poor.
This case report highlights the existence of aortic valve dysplasia in cats and may allow clinicians a better understanding of the clinical presentation of this congenital abnormality.
大動脈弁狭窄は保護施設の猫の0.028%で見られ、弁性のものはそのうち約半数を占める。
猫で報告されている先天性心疾患の中で、大動脈弁狭窄は2番目に多く、これらの症例のうち17%で見られる。
弁性大動脈弁狭窄に関する報告は少なく、臨床像や予後は十分に理解されていない。
この症例報告では、弁性の大動脈弁狭窄と診断した猫3頭について記述する。
すべての症例は心エコーで診断され、大動脈弁の弁尖癒合と上行大動脈の狭窄後部拡張を認めた。
3例ともうっ血性心不全を発症し、予後は不良だった。
この症例報告は、猫の大動脈弁形成不全の存在を明らかにし、臨床家がこの先天性異常の臨床像をよりよく理解する助けになるかもしれない。
コメント
猫の先天心の中では2番目に多い…といってもレアな大動脈弁性狭窄の症例報告です。
この論文では3頭が報告されており、概要を載せると
- 症例1
オリエンタルキャット 4ヶ月齢 メス 1.8kg
心雑音の評価で来院
心エコーで大動脈弁の肥厚、ドーミング、弁尖の癒合、大動脈の低形成や狭窄後部拡張を確認
大動脈圧較差 74mmHg、左室肥大なし(IVSd 3.9mm、LVPWd 3.8mm)、左房拡大(LAD 13.6mm、LA/AO 1.75)
アテノロール 0.8mg/kg bidを処方
診断後5ヶ月は状態良好
うっ血性心不全を発症、血栓塞栓の疑いもあり、フロセミド 1mg/kg bidへの反応が乏しかったため安楽死
- 症例2
ドメスティックショートヘアー 5ヶ月齢 メス 1.56kg
運動不耐性と心雑音の評価で来院
心エコーで大動脈弁の肥厚、弁尖の癒合、大動脈の低形成や狭窄後部拡張、大動脈弁逆流を確認
大動脈圧較差 64mmHg、心室中隔肥大(IVSd 5.7mm、LVPWd 4.3mm)、左房拡大(LAD 20.3mm、LA/AO 2.21)、左室拡大(LVIDd 20.0mm)
クロピドグレル 18.75mg/cat sidを処方
6ヶ月後にうっ血性心不全の徴候、飼い主の希望で安楽死
- 症例3
ベンガル 4歳10ヶ月齢 去勢オス 5.0kg
3ヶ月前にうっ血性心不全と診断され、フロセミド 1mg/kg bid、クロピドグレル 18.75mg sid、ベナゼプリル 0.25mg/kg sid、スピロノラクトン 4mg/kg sid内服中
鎮静下で検査を実施
X線検査で心拡大、肺水腫の所見
心エコーで大動脈弁尖の癒合と狭窄後部拡張、左房ではもやもやエコーが見られ、左心耳では血栓の疑い
大動脈圧較差 48mmHg、左室肥大(IVSd 7.2mm、LVPWd 8.1mm)、左房拡大(LAD 28.1mm、LA/AO 3.00)
フロセミドを2mg/kg bidに増量、他の薬剤は同用量で継続
1年後、フロセミドを2mg/kg tidへと増量しても反応が乏しくなったため安楽死
となります。
個人的には、弁性の大動脈弁狭窄の猫を診た経験はわずかで、パッと思い出せるのは2頭くらいです。
左室肥大に伴う動的大動脈弁弁下狭窄なら日常茶飯事ですけど。
この報告では3頭とも内科治療ではしのぎきれず、最終的には安楽死となっています。
大動脈弁が変形して狭くなっている症例ですから、狭いところが薬で広がるわけでもなく、残念ながら薬物治療ではこれが限界…という感じでしょうか。
理屈の上では、犬の肺動脈弁狭窄のバルーン拡張術のように、外科的に狭いところを広げるのが一番という気がします。
しかし、心臓外科の先生からバルーンで治療した症例の話を聞いたことがありますが、色々と難しい点があるようです。
論文での報告も見あたらず、まだまだ一般的な治療法とは言い難い状況なので、今後の治療法の発展に期待したいところです。
今回の猫たちの圧較差は48〜74mmHg(流速的には約3.5〜4.3m/秒)でした。
確かに軽くはないけれど、重度と呼ぶのも微妙な程度の狭窄なので、そんなに早くうっ血性心不全になるかなあというのが第一印象でした。
自分がこれまでに診てきた肺動脈弁狭窄とか、動的大動脈弁下狭窄の症例でこれくらいの圧較差だったら、心肥大は起きたとしても、数年は無症状の子なんてザラにいますし、そのまま症状なく生涯を終える子だっていますので。
しかも、来院時無症状だった1例目の子が最も高い圧較差で、一番重症だった3例目の子が一番低い圧較差と、臨床徴候と狭窄の程度がちぐはぐな結果でした。
著者もこの点は気になったのか、3例目に対しては「心臓の収縮力が落ちていたからでは」「鎮静下の検査だったからでは」と考察しています。
また、「大動脈そのものの低形成が予後に関わっているのでは」とも述べています。
今回の報告では、低形成があった1〜2例目は1歳程度でお別れし、問題なかった3例目は6歳近くまで生存しています。
確かに、成長期で身体や心臓が大きくなるのに合わせて大動脈も成長しなければ、相対的に狭窄は増していくことになります。
診断時には大動脈弁そのものだけでなく、大動脈の径にも注意を払うべきかもしれません。
レアな疾患だけに、データが少なく、なかなかはっきりしたことが分からない中の貴重な症例報告でした。